茨木のり子 名人・名言集

茨木のり子(いばらぎ のりこ)
生誕:1926年(大正15年)6月12日
出生:大阪府
出身:愛知県西尾市
「櫂 (同人誌)」を創刊し、戦後詩を牽引した女性詩人、童話作家、エッセイスト、脚本家
死去:2006年(平成18年)2月17日
まきこまれ ふりまわされ くたびれはててある日 卒然と悟らされる もしかしたら たぶんそう 沢山のやさしい手が添えられたのだ 一人で処理してきたと思っている わたくしの幾つかの結節点にも 今日までそれと気づかせぬほどのさりげなさで
★ 落ちこぼれの実 いっぱい包容できるのが豊かな大地 それならお前が落ちこぼれろ はい 女としてとっくに落ちこぼれ 落ちこぼれずに旨げに成って むざむざ食われてなるものか 落ちこぼれ 結果ではなく 落ちこぼれ 華々しい意思であれ
★ だいたいお母さんてものはさ しいんとしたとこがなくちゃいけないんだ
★ おばあちゃまは怒る 梅干ばあちゃま 魚をきれいに食べない子は追い出されます お嫁に行っても三日ともたず返されます 頭と尻尾だけ残し あとはきれいに食べなさい お嫁になんか行かないから 魚の骸骨みたくない
★ 言葉が多すぎる というより 言葉らしきものが多すぎる というより 言葉と言えるほどのものが無い この不毛 この荒野 賑々しきなかの亡国のきざし さびしいなあ うるさいなあ 顔ひんまがる
★ なぜ国歌など ものものしくうたう必要がありましょう おおかたは侵略の血でよごれ 腹黒の過去を隠しもちながら 口を拭って起立して 直立不動でうたわなければならないか 聞かなければならないか 私は立たない 坐っています
★ 戦争責任を問われて その人は言った そういう言葉のアヤについて 文学方面はあまり研究していないので お答えできかねます 思わず笑いが込みあげて、どす黒い笑い吐血のように 噴きあげては 止り また噴きあげる
★ 生きてゆくぎりぎりの線を侵されたら 言葉を発射させるのだ ラッセル姐御の二丁拳銃のように 百発百中の小気味よさで
★ はじめての町に入ってゆくとき わたしはポケットに手を入れて 風来坊のように歩く たとえ用事でやってきてもさ お天気の日なら 町の空には きれいないろの淡い風船が漂う その町の人たちは気づかないけれど はじめてやってきたわたしにはよく見える なぜって あれは その町に生まれ その町に育ち けれど 遠くで死ななければならなかった者たちの 魂なのだ そそくさと流れていったのは 遠くに嫁いだ女のひとりが ふるさとをなつかしむあまり 遊びにやってきたのだ 魂だけで うかうかと
★ 子供たちには ありったけの物語を話してきかせよう やがでどんな運命でも ドッジボールのように受けとめられるように
★ 年老いても咲きたての薔薇 柔らかく 外にむかってひらかれるのこそ難しい
★ はじめての町に入ってゆくとき わたしの心はかすかにときめく そば屋があって 寿司屋があって デニムのズボンがぶらさがり 砂ぼこりがあって 自転車がのりすてられてあって 変わりばえしない町 それでもわたしは十分ときめく
★ 道でばったり奥様に出会い 買い物籠をうしろ手に 夫の噂 子供の安否 お天気のこと 税金のこと 新聞記事のきれっぱし 蜜をからめた他人の悪口 喋っても 喋っても さびしくなるばかり 二人の言葉のダムはなんという貧しさだろう やがて二人はいつのまにか 二匹の鯉になってしまう 口ばかりぱくぱくあけて 意味ないことを喋り散らす 大きな緋鯉に! そのうち二匹は眠くなる 喋りながら 喋りながら だんだん気が遠くなってゆくなんて これは まひるの惨劇でなくてなんだろう 私の鰭は痺れながら ゆっくり動いて 呼子を鳴らす しぐさになる
★ 年老いても咲きたての薔薇 柔らかく 外にむかってひらかれるのこそ難しい
★ 満員電車のなかで したたか足を踏まれたら 大いに叫ぼう あんぽんたん! いったいぜんたい人の足をなんだと思ってるの
★ 大人になってもどぎまぎしたっていいんだな ぎこちない挨拶 醜く赤くなる 失語症 なめらかでないしぐさ 子供の悪態にさえ傷ついてしまう 頼りない生牡蠣のような感受性 それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
★ ことば ことば おんなのことば しなやかで 匂いに満ち あやしく動くいきものなのだ ああ
★しかしわたくしたちのふるさとでは 女の言葉は規格品 精彩のない冷凍もの わびしい人口の湖だ
★ いとしい人には 沢山の仇名をつけてあげよう 小動物やギリシャの神々 猛獣なんかになぞらえて 愛しあう夜には やさしい言葉を そっと呼びにゆこう 闇にまぎれて
★ 大人になるというのは すれっからしになることだと 思い込んでいた少女の頃、立居振舞の美しい 発音の正確な素敵な女のひとと会いました そのひとは私の背のびを見すかしたように、なにげない話に言いました。初々しさが大切なの。人に対しても世の中に対しても。人を人とも思わなくなったとき 堕落が始るのね 堕ちてゆくのを 隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました 私はどきんとし、そして深く悟りました
★ 人間は誰でも心の底に しいんと静かな湖を持つべきなのだ
★ ひとりの人間の真摯な仕事は おもいもかけない遠いところで 小さな小さな渦巻きをつくる
★ わたしが一番きれいだったとき わたしはとてもふしあわせ わたしはとてもとんちんかん わたしはめっぽうさびしかった だから決めた できれば長生きすることに 年とってから凄く美しい絵を描いた フランスのルオー爺さんのように ね
★ 一人でいるのは賑やかだ 誓って負け惜しみなんかじゃない 一人でいるとき淋しいやつが 二人寄ったら なお淋しい おおぜい寄ったなら だ だ だ だ だっと 堕落だな
★ 苛立つのを 近親のせいにはするな なにもかも下手だったのはわたくし
★ わたしが一番きれいだったとき 誰もやさしい贈り物を捧げてはくれなかった 男たちは挙手の礼しか知らなくて きれいな眼差だけを残し皆(みな)発っていった
★ 一人でいるのは 賑やかだ 賑やかな賑やかな森だよ 夢がぱちぱち はぜてくる よからぬ思いも 湧いてくる エーデルワイスも 毒の茸も 一人でいるのは 賑やかだ 賑やかな賑やかな海だよ 水平線もかたむいて 荒れに荒れっちまう夜もある なぎの日生まれる馬鹿貝もある
★ わたしが一番きれいだったとき わたしの国は戦争で負けた そんな馬鹿なことってあるものか ブラウスの腕をまくり 卑屈な町をのし歩いた
★ 死こそ常態 生はいとしき蜃気楼
★ 気難かしくなってきたのを友人のせいにはするな
★しなやかさを失ったのはどちらなのか
★ ばさばさに乾いてゆく心を ひとのせいにはするな みずから水やりを怠っておいて
★ もっと強く願っていいのだ わたしたちは明石の鯛が食べたいと もっと強く願っていいのだ わたしたちは幾種類ものジャムがいつも食卓にあるようにと もっと強く願っていいのだ わたしたちは朝日の射す明るい台所がほしいと
★ わたしが一番きれいだったとき わたしはとてもふしあわせ わたしはとてもとんちんかん わたしはめっぽうさびしかった
★ 私の意志で、葬儀・お別れ会は何もいたしません。この家も当分の間、無人となりますゆえ、弔慰の品はお花を含め、一切お送り下さいませんように。返送の無礼を重ねるだけと存じますので。“あの人も逝ったか”と一瞬、たったの一瞬思い出して下さればそれで十分でございます
★ 初々しさが大切なの 人に対しても世の中に対しても 人を人とも思わなくなったとき 堕落が始まるのね
★ 初心消えかかるのを暮しのせいにはするな そもそもがひよわな志にすぎなかった
★ 人間だけが 息つくひまなく動きまわり 忙しさとひきかえに 大切なものを ぽとぽとと落としてゆきます
★ あなたはエジプトの王妃のように たくましく 洞窟の奥に座っている あなたへの奉仕のために 私の足は休むことをしらない あなたへの媚(こび)のために くさぐさの虚飾に満ちた供物を盗んだ けれど私は一度も見ない 暗く蒼いあなたの瞳が 湖のように ほほえむのを 睡蓮のように花ひらくのを
★ 落ちこぼれ 和菓子の名につけたいようなやさしさ 落ちこぼれ 今は自嘲や出来そこないの謂 落ちこぼれないための ばかばかしくも切ない修業 落ちこぼれこそ 魅力も風合いも薫るのに
★ もはや できあいの思想には倚りかかりたくない もはや できあいの宗教には倚りかかりたくない もはや できあいの学問には倚りかかりたくない もはや いかなる権威にも倚りかかりたくない ながく生きて 心底学んだのはそれぐらい
★ なぜだろう 萎縮することが生活なのだと おもいこんでしまった村と町 家々のひさしは上目づかいのまぶた おーい 小さな時計屋さん 猫背をのばし あなたは叫んでいいのだ 今年もついに土用の鰻と会わなかったと
★ 軌道を逸れることもなく いまだ死の星にもならず いのちの豊饒を抱えながら どこかさびしげな 水の星 極小の一分子でもある人間がゆえなくさびしいのもあたりまえで あたりまえすぎることは言わないほうがいいのでしょう
★ あらゆる仕事 すべてのいい仕事の核には震える弱いアンテナが隠されている きっと...わたくしもかつてのあの人と同じぐらいの年になりました たちかえり 今もときどきその意味をひっそり汲むことがあるのです
★ わたしが一番きれいだったとき 街々はがらがら崩れていって とんでもないところから 青空なんかが見えたりした わたしが一番きれいだったとき まわりの人達がたくさん死んだ 工場で 海で 名もない島で わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった
★ 「こんな時代を生きる若者を軽々しくののしるな」と大人に言いたい。しかし、当の若者たちには冷徹にこの言葉を渡したい。駄目なことの一切を 時代のせいにはするな わずかに光る尊厳の放棄 自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ
★ ぱさぱさに乾いてゆく心をひとのせいにはするな みずから水やりを怠っておいて 気難しくなってきたのを友人のせいにはするな しなやかさを失ったのはどちらなのか
★
人気名言ランキング
今月ランキング
- 70票 狩野英孝(かの えいこう)<br> 生年月日:1982年...
- 70票 ガッツ石松(ガッツ いしまつ)本名:鈴木 有二(...
- 56票 綾小路きみまろ(あやのこうじ きみまろ)<br> 本...
- 38票 みの もんた<br > 本名:御法川法男(みのりか...
- 36票 井上尚弥(いのうえ なおや)<br>生誕:1993年4月1...
- 27票 米津玄師(よねづ けんし・Kenshi Yonezu)<br ...
- 25票 クロちゃん<br> 本名は黒川 明人(くろかわ あき...
- 22票 島田紳助(しまだ しんすけ)<br > 本名:長谷...
- 21票B・N・F(ビー・エヌ・エフ、1978年3月5日 - )とは...
- 20票 ジェシー・ローリストン・リバモア(Jesse Laurist...